投稿日: 2024年05月08日

PURE JOY. …Not now. Not here.
純粋な喜び…今はない。ここではない
This is the music of joy.
これこそ喜びの音楽

 

スポーツ・イラストレイテッド「SI誌」は
1954年8月に創刊のアメリカ合衆国のスポーツ月刊誌で
初めて発行部数100万部を超えた雑誌として知られ
スポーツファンにとっては必読の雑誌とされる

 

少し前になるが、3月に私の手元に届いた
同誌4月号(April 2021 Vol. 134, No. 3)
に表紙を飾る大谷翔平の特集記事が掲載されていた
(日本語版で同様の記事が紹介されていたかどうかは知らない)

 

日本ではもちろん
このわずか数年間の間に
世界中の野球ファンを熱狂させ続けている

 

日本が生んだもはや
野球界を超えた世界のスター。。。
というより
世界スポーツ史上でも不世出のスーパースター。。。

 

なぜ スーパースターになり得たのか
なぜ 引き続きなり続けることができるのか。。。
なぜ こんなに世界中の人々から愛されているのか。。。
なぜ こんな人間に生まれ育ったか。。。

 

日本古来の文化・倫理観や
生き方、哲学などに触れながら
米国記者が
人間 ”大谷翔平” の実像に迫りながら
その手がかりをつかもうとしている

 

純粋無垢な幼少期・少年時代の
家庭教育、環境こそが
来るべき人間性を育み
特別な感性を生み
天才的パフォーマンスを発揮させた

 

この土台となる重要な決め手が潜んでいるように
私には思えてしかたがない

 

エンジェルス => ドジャース の トレード
内幕・裏話を披露した極めて具体的なこのエピソード内に
そのヒントがある

 

下記、原文(英語版)を意訳し
一部個人的な解説を加えてみた

 

PART 1: THE GLOVES  (グローブ)
PART 2: THE NOTEBOOK (ノートブック)
PART 3: THE DOG  (愛犬)
PART 4: THE DEFERRAL (支払い延期契約)
PART 5: GENIUS (天才)

 

++++++++++++++++++++++++++++++
PART 0: 表紙を飾る写真に添えられたフレーズ:
Money Can Wait. Winning Can’t.
金は待てる。勝利は待てない

 

大谷翔平にとっては
金銭的な報酬よりも
勝つことが大事

 

選手として勝利を追求することが何よりも重要であり
金銭的条件は二の次。。。
とはよく言われ、みんなそう口にする

 

大谷に対し
”Winning Can’t” と短く表されたこの言葉
その達成を先延ばしにすることはできないという強い意思
に彼の基本的精神、価値観が真に迫る

 

その上で記事は
Inside the Mind of Baseball’s Most Fascinating Figure
“野球界で最も魅力的な存在の心理を探る” とある

 

大谷翔平は現在、野球界では破格、最も注目される存在になったが
そのスーパー・パフォーマンスに加え
その魅力的で興味深い心理面に焦点を当てた

 

どのようにして直面するプレッシャーや期待に対処しているのか
彼の成功にはどのような心理的要因が関与しているのか。。。

 

誌の表紙を飾る写真、このテーマ。。。
競技に対する姿勢や価値観など
大谷の内面や思考過程に注目する

 

それを受けて、2ページ目では
THE ICON AMONG US
私たちの中のアイコン。。。

 

スーパーマン的な才能や資質、偉業などで
偉大な象徴的(アイコン的)存在でありつつ

 

私たち一般人の心に寄り添い
私たちと同じ社会やコミュニティや環境の中で
身近な存在として感じられ
より親近感やリアリティを持つ存在として捉えられている

 

アメリカ人目線からも
ただ単に成功したスポーツ選手ではなく
彼自身が文化や社会において重要な象徴的存在であり
私たちと同じ日常の現実の中で生活している
実在の人物であるという点を大きく取り上げているところが興味深い

 

そのスーパーマン的偉業により
First, he shattered expectations for what a baseball player can be.
Then Shohei Ohtani did the same to the sport’s star-driven economics.
All he wants now: a chance to bend October to his will.
まず
野球選手としての期待を超えた成果を挙げた
次に
スター中心の野球経済観念・スター主導の経済をも打ち砕いた
そして今
彼が望むのは10月(ワールドシリーズ)を手中にするチャンスのみである

 

プレーオフやワールドシリーズでの成功を切望する背景には
彼の競争心と野球に対する情熱を強調すると同時に
スターに期待されること。。。
市場やメディアに対しても一石を投じようとしいるのではないか。。。

そして3ページ目
PURE JOY. …Not now. Not here.
This is the music of joy.
純粋な喜び…今はない。ここではない
これこそ喜びの音楽

私があえて本ブログ記事の冒頭に掲げたフレーズで
私自身の心が最も揺れた

 

私もかくありたいと願う「少年の心」
未来にあこがれ、その期待
はち切れんばかりの夢に満ち満ちた
素直で純粋無垢な姿につながる。。。

 

PURE JOY
純粋無垢 な喜び
純真無垢 な喜び

 

The peal of wedding bells.
The spring sonata of a songbird.
And this. Elementary schoolchildren at play.

 

Shohei Ohtani is listening to and watching them smile
and shriek in the delight that only the innocence and wonder of youth allow.
The world will teach them anxiety, duplicity and cynicism.

 

Not now. Not here.
This is the music of joy.

 

結婚式の鐘の音色。春の小鳥のさえずり
そして 時を忘れ無心に遊ぶ少年少女

 

大谷翔平は
その笑い顔と
子供の時だけが持つ純真な喜びの叫び声
に耳を傾け、見つめている

 

世間は不安、偽りと冷めた心を彼らに教えるだろう
しかし。。。

 

今はまだ
ここにはない
これこそが喜びの音楽。。。

 

。。。彼らがこの先直面するであろう
不安、偽り、皮肉などのネガティブな要素は
この瞬間、この場所には存在しない

 

子供たちの無邪気で純粋な喜びの姿を
大谷は深く愛しみながら眺めている

 

子供たちの笑顔や歓声は、
子供のもつ純粋さと驚きによってのみ可能な
喜びの表現

 

この世界の中で失われがちな
ほんとの喜びの源泉そのものを
大谷は心から大切にしている

 

まだ世界の複雑さや困難に触れていない、
世間の厳しさに直面していない安堵感
世間の不安や偽りとは無縁の
子供たちの純粋無垢な叫び・歓声
けがれないそのままの喜びの姿を目にし
それこそが喜びの音楽そのものだと捉えている

 

その様子を観察し その純粋な瞬間から
彼がどのようにインスピレーションを受けているか。。。

 

常識を覆す先駆者でありながら
同時に人間性の根源的な部分にも目を向ける
多面的な大谷の姿が浮かび上がってくる

 

4ページ以降は
原文(英文)の私の日本語翻訳・意訳文です

 

さすがプロの専門ジャーナリスト。。。
現場取材した生々しい声を拾った
きわめて具体的かつ詳細記事で
リアルな ”ものがたり” となっている

 

PART 1: THE GLOVES  (グローブ)
PART 2: THE NOTEBOOK (ノートブック)
PART 3: THE DOG  (愛犬)
PART 4: THE DEFERRAL (支払い延期契約)
PART 5: GENIUS (天才)

 

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*** PART 1: グローブ THE GLOVES

「すごく特別な感じがした!」 男の子が興奮気味に言う。
「サインが入っていたんだ! さわれて嬉しかった!」
大谷はスマートフォンで3分間ビデオを見ている。
ニューヨーク市ミッドタウンのホテルの47階のスイートルームのベッドルームに座り
視界にはセントパトリック大聖堂の尖塔や真西にハドソン川が望める。

 

モード調の黒革のジャケットに白いシルクのTシャツ、濃紺のジーンズという出で立ち。
身長6フィート4インチ(約193cm)、体重210ポンド(約95kg)と言われているが
近くで見るとさらに大きく見える。
イタリア製のスポーツカーのように、無駄のない角張った姿からは敏捷性さとスピードを感じさせる。
パワーはすべて内部に秘められている。

 

彼と一緒にいるのは、彼が最も信頼する二人の友人。。。
左側には、トレーニングパートナーであり、何があってもつきっきりの友人で通訳でもある水原一平が座っている。
そして後ろのベッドには、大谷の愛犬デコピンこと英名デコイ(Decoy)が体を丸めて居心地よさそうにくつろいでいる。
二刀流の活躍をみせた野球選手のペットにふさわしく、もちろんバイリンガル。

 

「これは初めて見た」 大谷はビデオを見ながら言った。 笑顔を浮かべている。
昨年12月、大谷は日本の約2万の小学校に6万個の野球用グローブを寄付した。
それぞれの学校に右手用のグローブ2個と左手用のグローブ1個。

 

グローブの大半は学校の冬休み中に届いたものの、大谷の寄付のニュースが伝わると子供たちは校庭に殺到した。
箱から取り出されたグローブは黄金の羊毛のように高く掲げられた。

 

一部の市の役人は博物館の展示品のようにグローブをガラスケースに入れたが、
大谷の意図を理解している人々から直ちに非難の声があがった。

 

「新しいグローブが来るって聞いて、早起きしました」 と男の子が話す。
学校職員も「グローブが見れるのを本当に楽しみにしていました。本日は休日なのに来てしまいました。」
男の子や女の子たちはキャッチボールを始める。

 

キャッチボールは、素晴らしい野球の中でも最も美しいゲームである。
人と人とをつなぐ方法であり、共有体験であり、与えることと受け取ることの永遠の練習です。
学校のスタッフは「きっと素晴らしい思い出になると思います。本当にありがとうございます。」

 

男女の子供たちが集まり、大谷へのメッセージを叫ぶ。
「やったー! 最高のクリスマスプレゼントだ! メリークリスマス!」

 

ビデオが終わる。大谷は顔を上げ、まるでその子供たちの一人のように笑っている。
「正直、これで終わりではありません。」 と大谷は言う。
「これからも続けていきたい、これが始まりに過ぎないことを嬉しく思います。」

 

グローブの寄付は大谷自身のアイデアだった。
最近になってニューバランスとの契約を更新したばかりで、これを含む複数のスポンサー契約で年間5000万ドルの収入が見込まれていた。
そして12月11日、フリーエージェントとなった大谷は、スポーツ史上最高かつ前代未聞の契約を結んだ。
ドジャースは、大谷の要請でもあり球団の財政負担を軽減するため、今後10年間は年俸200万ドル、その後10年間は年俸6800万ドルとする契約(利子無し)を結んだ。

 

グローブを寄付することは、大谷が自身の成功を分かち合う方法だった。
それはまた、なぜ大谷が期せずしてなぜ現代のユニコーンであり、
地球上で最も人気のあるアスリートの一人になったのかを説明する重要な手がかりにもなる。
これは、彼が自らを省み自身について語る稀な機会でもある。
なので、寄贈されたグローブの話から始めるのがよさそうだ。

 

「ニューバランスとの契約を更新し、ドジャースと契約を結んだことから、このアイデアが浮かんだんです」 と大谷は言う。
「基本的には、ファンの皆さんからのお金なんですよ。だからお返しがしたかったんです。
現状だけでなく、将来のこと、野球のことを考えてのことです。まあ、ある程度返すのは普通のことだと思います」

 

「何らかの形で野球を始める子供たちもいるでしょう。野球の基本。。。キャッチボールからスタートする。
それでこのアイデアを思いついたんです。考えてみれば、すぐに大きな影響があるわけではないかもしれないですが、
このようなことを続けていけば、将来的には大きな助けになると思うんです」

 

大谷は自分の初めてのグローブのことを思い出す。
5、6歳の頃のこと。兄の隆太から譲り受けた、よく使われた濃い茶色の革のグローブだった。
2年後、小学2年生の時に、初めて地域のゴムボールの野球チームに入った。

その記念に、企業スポンサーのアマチュアチームの外野手である父親の徹から、自分専用の最初のグローブをプレゼントされた。
赤と黒のツートンカラーの美しいスポルディングのグローブだった。
しかし、購入後に試合で複数色のグローブは使えないことが分かった。
そこで大谷は黒いシャーペンで自分の初めてのグローブの色を規定に合わせた。

 

徹は大谷が小学生から中学生の頃まで監督を務め、9歳から12歳までのチームのマネージャーだった。
「私は監督の息子ということで、より難しい立場でした」 と大谷は言う。
「単に監督の息子だからという理由で出場機会を与えられているわけにはいかなかったんです。
実力があると証明しなければなりませんでした。そう意味であの頃はプレッシャーがありました。」

 

*** PART 2: ノートブック THE NOTEBOOK

大谷が9歳か10歳のある日、徹は小さな大学ノートを買った。
試合や練習が終わると、息子の出来栄えについてメッセージを書き残した。
その日の投球のコントロールを褒めたかもしれないし、ストライクゾーンの外の球を振ってしまったことを指摘するかもしれない。
シンプルなウォームアップの投げ込み練習など、細かく気を配る大切さを思い出させたかもしれない。
そして、そのノートを息子に手渡した。

 

***小学5年生くらいまで「野球ノート」と書いたノートで、
大谷翔平と父は野球についてのアドバイスや反省などを交換日記のように書いていたとのこと。

 

 

1、2日後には、大谷自身の観察や評価を書き込んだノートを父親に返した。
大谷は自身の目標を書き留めることにも熱心で、勝ちたい大会とか、
来週までにどのようなプレーヤーになりたいとか、
高校時代までに、30歳までに。。。といった具合に書いた。
数日後には再び徹が書く番になり大谷に渡す。
その繰り返しが4年ほど続いた、文字のキャッチボールだった。父と子でノート3冊埋め尽くした。

 

父は大谷に3つのことを繰り返し伝えた。
(1) フィールド上でのコミュニケーションをはっきりと大きな声で行うこと
(2) いつも全力を尽くせ
(3) キャッチボールの際は単なるルーティンの投げ込みではなく、正確さと技術を磨くための目的意識を持て、と。
全体のテーマは、試合でも練習でも揺るぎない意図を持つ姿勢だった。
お互いの言葉を書き残すことで、大谷にとってそれらの教訓は価値が高まっていき心に永久に刻み込まれたのだった。

 

今や、大谷は世界で最も有名で愛される、そして裕福なアスリートの一人となった。
12月9日にインスタグラムでドジャースと契約を発表した時、彼のフォロワー数は620万人だったが今では7100万人に達している。
東京や、大谷の出身地である岩手県で人々は新聞の特別版を買うために長蛇の列を作った。
また、人々は大谷の出身高校に殺到し、大谷の手形を残した記念碑の写真を撮ろうと押し合った。

 

さらに郵便局では、
大谷翔平プレミアム切手セット(5種類の切手と、昨季の本塁打数44本に因んだ44枚のはがき付き)
を購入するために7260円(約48ドル)を支払う人々でごった返した。

 

アパレル企業ファナティックスによれば、大谷のドジャース公式ユニフォームはリリース初48時間で過去最高の売り上げを記録し、
サッカースターのクリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシの記録を抜いた。
12月14日のドジャー・スタジアムでの彼の入団記者会見は、7000万人が視聴したが、これはこれまでのワールドシリーズの視聴者数を上回る規模である。

 

2022年、日本人は非常に人気のある日本のマンガやアニメシリーズやワールドカップを押さえて、
大谷を「年間の好きな人」「話題の人」 第1位に選んだ。
夏の世論調査では、12歳から21歳の22.3%が大谷を最も好きなアスリートに選んでいる。
他のどの選手も3.1%を超えていなかった。

 

「ファンやスポンサーから寄せられる反響と関心の高さは、私たちが想定していた以上のものです」
とドジャースの副社長兼最高マーケティング責任者ロン・ローゼンは語る。
ローゼンは1月、ドジャースのスポンサーになることを熱望している企業と会うため日本を訪れた。
多くの最高経営責任者の会議室や執務室に、まるで大谷の祭壇のような空間があり驚かされた。

 

しかしながら…大谷の魅力は、彼が生み出す莫大な関心や金銭的価値にあるのではない。
大谷からグローブを寄贈されただけで、休日に学校に駆けつける子供たちの姿こそが、大谷の魅力の源泉なのである。

 

昨年は大谷にとって、人気と謙虚さの両面で新たな高みに達した1年だった。
WBC決勝で、打者として打席に入る合間には自らブルペンでウォーミングアップした後
当時のエンゼルスのチームメイトである マイク・トラウトを三振に打ち取り、日本に優勝をもたらした。
アメリカ人の主力投手がこぞってこのトーナメントを欠場する中で、大谷は積極的に出場を希望した。

 

アメリカン・リーグで本塁打王とMVP・最優秀選手賞を全会一致で獲得。
記録的な契約金の97%を利子なしで支払い延期を提案し、
エンジェルス時代17番を着用していたジョー・ケリーの妻に感謝の意を表してポルシェ贈った。
さらに、元旦襲った地震の被災地支援にドジャースと共に100万ドル以上を寄付した。

 

これほど人気者のスーパースターは
いつもダッグアウトの床に落ちているガムの包み紙などのごみを拾う等
几帳面で礼儀正しくきちんとした人柄の持ち主でもある。

 

ローゼンは次のように述べている。
「スポーツ界に40年近くいて、マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、マイク・タイソン、ペレなど、
多くのビッグアスリートを見てきました。
しかし、大谷翔平のような人は、特に日本での彼の人気を考えると今まで見たことがありません。
彼が尊敬されているのは、単にスポーツ選手だからではない。
ジョーダンやマジックのように、彼には人々が本物だと感じる特別な何かがあります。」

 

「並外れた才能がありながら、『あの人も私たちと同じ人間』と誰もが感じられる資質があります。
彼には傲慢さや優越感の気配が全くありません。
人々は、大変思慮深く謙虚な人だと、ほんんものの大谷を見ているのです。」

 

*** PART 3: 愛犬 THE DOG

7歳年上の兄がいたので、子供のころの大谷は自分も兄弟の兄になりたがっていた。
そんなある日の1年生の時、両親の徹と加代子に犬が欲しいと頼んだ。
そして、ゴールデン・レトリバーを飼うことになった。
名前はエース(Ace)と付けられた。
この犬への愛情・愛着が、大谷が今日の二刀流選手になる一因となる。

 

2012年、高校生最後の年に大谷は日本プロ野球の球団に自分をドラフトしないように伝えた。
メジャーリーグの球団と契約する方針だったのだ。
大学1年生の時から大谷をスカウトしていたドジャースが有力候補とみられ、レッドソックスとレンジャーズも獲得に名乗りを上げていた。
当時のドジャースアシスタントゼネラルマネージャーのローガン・ホワイトは大谷をクレイトン・カーショウに例え、
「2年以内に投手としてメジャーデビューできる」と評価。さらに「打者としても興味深い見込みのある選手」」と述べていた。

 

2012年10月25日、日本ハムファイターズが大谷をドラフト指名した。
しかし大谷は「可能性はゼロパーセント」と契約の意思がないことを示した。
1週間後、ファイターズのスタッフが大谷の自宅を訪れた。
到着すると、彼らはまずは愛犬エースに愛情を注いだ。
それに気づいた加代子は「犬が好きな人は良い人たちだ」と思った。

 

ファイターズの栗山英樹監督は、大谷にメジャーに行く前に日本でまず二刀流選手としての実績を残すよう説得するため、2度にわたり会談した。
メジャーに行けば投手か打者の一方に専念させられる可能性が高かったためだ。
最初の会合では、栗山監督は大谷の高校の校章色にちなんで紫色の下着を着用した。
契約を決定づけた2回目の会合では、愛犬エースの毛並みの色に因んでベージュ色の下着を着用したのだった。

 

大谷はファイターズと契約し、新人選手が義務付けられているチームの寮に住むことになった。
彼はスターになってもその寮生活を選び続けた。
一方、エースは実家に残された。
ファイターズの遠征中のある日、エースが死んだ。
それ以来、大谷は犬を飼うことがなくなった。

 

昨シーズン、2018年にトミー・ジョン手術を受けていた大谷は、8月23日に投げる肘を再び痛めた。
彼はシーズンをエンゼルスでDH(指名打者)のみとすることを決めたが、9月3日には腹斜筋を痛め、これでシーズンを終えることになった。
これで肘の手術を遅らせる必要はなくなった。
9月20日、トミー・ジョン手術を行ったニール・エラトラーチェ医師が、前回とは異なる手術を施した。

 

声明の中で、エラトラーチェ医師は「当面の問題を修復し、健全な靭帯を強化しながら、肘の長期的な持続性のために生体組織を追加した」 と述べた。
手術の内容に詳しい2人の関係者によると、エラトラーチェ医師は修復部位の長期的な安定性を確保するため、
内側にスリーブまたは「ブレース」のような構造物を造りこんだようだ。
大谷は2025年にピッチングへの復帰を目指している。

 

手術の時期に、大谷は野球ファンの犬のブリーダーに会った。
療養のため数か月にわたり自宅で静養を強いられることを考え、「(犬を飼うのに)タイミングが絶好だと思った」と大谷は言う。
「家にいてなにもできない状況だったので、最適なタイミングだったんです。」

 

コーイケルホンディエ 種は、1500年代のオランダに起源を持つ。
狩猟者たちが、湿地帯で狐と同様の振る舞いをするこの犬種を育て、その動作で水鳥を誘き寄せ、わなやケージに追い込む役目を担わせたのがはじまりだった。
英語の”decoy(おとり)”という言葉は、オランダ語の”kooi(檻・ケージ)”に由来する。
現代ではクーイカーホンジェは、大谷も証言するように、忠実で気質の穏やかな伴侶犬として知られている。

 

「家の真正面に犬の公園があるんです」 と大谷は言う。
「1日2回、そこに連れて行きました。1回は昼間に、もう1回は夜に。
そして家に戻ると、リハビリのためにアームチェアで運動をします。
そして食事の時間が合うよう調整して、一緒に食べていましたね。」

 

「ただ、のんびりしているだけでしたね」と大谷は続ける。
「それが日々の日課で、ドジャースと契約を結ぶまでは続きました。
契約後は、ドジャー・スタジアムに通うようになりましたが。」

 

リハビリの単調さを癒してくれたのが、愛犬との時間だったようだ。
大谷は「手術後の散歩は気分転換になりました。気持ちがリフレッシュでき、とても楽しかったですね。
前回に比べてリハビリの期間が短く感じられています」 と語っている。

 

「外を自由に歩けないので、家の中にいられるのはありがたいことです。
長年一人暮らしをしていましたから、誰もいない環境でしたね。
だから、いつも一緒にいてくれて愛情を示してくれる存在がいるのは本当に素晴らしいことなんです。今では一緒に寝ているくらいですから。」

 

愛犬が全米ネットワークテレビに初登場したのは、11月16日のMLBネットワーク出演の際だった。
この日、大谷は2度目のMVP受賞を機に番組に出演した。
番組スタッフには愛犬の名前を尋ねないよう指示があったそうだ。
愛犬の名前がフリーエージェント加入先のヒントになるのではないかと、憶測が飛び交っていたのだ。

 

12月1日、大谷がドジャー・スタジアムを視察訪問した際、ドジャースはあらゆる手を尽くした。
施設の案内や下部組織・マイナーリーグシステムを誇示した。
そして野球運営本部長のアンドリュー・フリードマンが自分の携帯電話を取り出した、

 

1週間ほど前のこと、フリードマンはローゼン副社長とブランドン・ゴメスGMと一緒にいた際、2017年のことを思い出した。
当時フリーエージェントとなったばかりの大谷を獲得しようと、レイカーズの偉大なコービー・ブライアントに勧誘ビデオの撮影を依頼していたのだ。
ドジャースは2回目の面談の際、そのビデオを見せる予定だったが、2回目の面談は実現しなかった。
当時はナ・リーグにDH(指名打者のポジション)がなかったため、大谷の二刀流プランが難しかったのだ。
結局大谷はすぐにエンジェルスと契約を交わした。

 

「このビデオ、私の携帯にまだ残ってるんだ!」とフリードマンは、ローゼンとゴメスに語りかけた。
「今回の面談で見せたら素晴らしいだろう?」

 

それは2020年のヘリコプター事故で命を落とした、コービー・ブライアントのビデオだった。
フリードマンは6年前に撮影されたそのビデオを、大谷に見せた。
「大谷が感動したのがわかりました」 とフリードマンは振り返る。
「究極の勝利者ブライアントからのメッセージは最高でした。
熾烈な競争心を燃やすという点で、大谷とブライアントは同じような人物だと思っていたからです。
特にWBC決勝の大谷の姿勢は、まさにそれを体現していました。」

 

ドジャースにはもう一つのサプライズがあった。
3時間に及ぶ面談の最後まで待ってから、大谷にギフトボックスを手渡したのだ。
開けてみると、彼はそれを開けるとすぐに大笑いし、笑顔がこぼれた。
中には、ドジャースをモチーフにした犬用のおもちゃがぎっしり詰まっていたのだ。
この日一番のヒット作だったかもしれない。
「これが私たちの秘密兵器だったんです」 とフリードマンは語っている。

 

2週間後、300人を超える写真家と記者が詰めかけた入団記者会見で、10問目の質問で待望の質問がなされた。
「あなたの犬の名前は何ですか?」
大谷は犬の名前がデコピンであることを明かした。
「デコピン」とは、学校で誰かの額を指ではじくイタズラを意味する日本語。
これはまた、この犬種の伝統に忠実な英語版の名前も意味する: デコイ。

 

大谷は当初、1月のニューヨークへの2日間の旅に、デコピンを連れて行く予定はなかった。
この旅では年間表彰式でMVPを受賞する予定で、不在の間は水原の妻がデコピンの世話をすることになっていた。
しかし南カリフォルニアを発つ際、大谷は愛犬を置いて行くことができず気が変わった。

 

ニューヨークでは、デコピンは陽気な赤いチェック柄のセーターを着て、英語と日本語の両方の指示でどのように反応するかを披露した。
「とてもお利口さんなんです」 と大谷は言う。
「最初はトイレのことで問題がありました。もちろん、自然なことですけどね。
でも、初めて成功したのはドジャースと契約した日だったんです。大きな日でしたね!」

 

*** PART 4: 支払い延期契約 THE DEFERRAL

12月7日の夕方、フリードマンの電話が鳴った。
大谷のエージェント、ネズ・バレロからだった。
バレロが初めて、大谷が7億ドルもの契約金のほとんどを無利子で延期払いにするアイデアを提示してきたのだ。
フリードマンは、「すぐに一つの言葉が頭に浮かんだ」 と言う。
その言葉は「Deal!(取引成立!)」。

 

その種の支払い延期は驚くほど前代未聞で、選手にそんな提案をするなんて、フリードマンにとってはあり得ないことに思えた。
自分からそんなことを頼むなんて、絶対にできなかっただろう。
それがいま、目の前に差し出されているのだ。

 

「少し考えてみると、ネズと翔平がこれまで言ってきたことと全く一致していることがわかりました」
とフリードマンは言う。
「交渉の場では、言葉と行動が一致しないことがよくあります。しかし今回は、言葉と行動が完全に一致していたのです」
フリードマンは、他のチームからのオファーもあるバレロ と、翌朝もう一度詳しく話し合うことに同意した。

 

電話を切ると、フリードマンはすぐにドジャース社長兼CEOのスタン・カステンに電話をかけた。
「ありえない話だが」 とフリードマンは言った。
「それは良い意味での『ありえない』? それとも悪い意味での『ありえない』 のどちらなのか?」 とカステンは尋ねた。
「良い意味だ。。。 とても良い」

 

支払い延期のアイデアは、数週間前から大谷の頭の中で醸成されていた。
大谷は2023年シーズン前にエンゼルスとの契約延長に近づいたことはなかった。
オーナーのアルテ・モレノは、どれほど高額になるかを懸念していた。
モレノは2019年から始まる12年4億2650万ドルの契約延長に調印し、トラウトに野球界最高の契約を交わしていた。
また、2020年から始まる7年2億4500万ドルのフリーエージェント契約をアンソニー・レンドンに提示し、これは当時三塁手としては史上最高の平均年俸だった。
しかし、2020年から2022年にかけて、この2人だけでエンゼルスの試合の52%を欠場した。
チームの計画に詳しい関係者によると、モレノは大谷の契約に「4から始まる」数字を想定していたという。
エンゼルスとバレロは、シーズンを終えてから将来について話し合うことに同意した。

 

昨年7月のトレード期限が近づいた時点で、エンゼルスは56勝51敗で、ワイルドカード争いから3ゲーム差の位置につけていた。
プレーオフ進出まであと55試合という状況だった。
チームはこの9年間、ポストシーズンに進出していなかった。
モレノはこのチャンスを逃そうとは思わなかった。
フリーエージェントの入札合戦で大谷を引き留められる可能性は低いと分かっていながら、大谷をトレード市場に出さなかったのだ。

 

エンジェルスはすぐに沈み始めた。
7連敗を喫し、その後17勝38敗という急降下を始めた。
大谷は肘、そして腹斜筋を痛めた。
トラウトとレンドンのさらなる故障(昨シーズンは出場可能試合の61%を欠場)により、
モレノはFAフ(リーエージェント市場)が始まって間もなく、バレロに大谷獲得を断念することを伝えたと情報筋は語った。

 

一方、ドジャースは大谷の価値についてバレロと早い段階で重要な接触を行った。
バレロのクライアントは、FAの歴史上、他に類を見ない選手だった。
エリート二刀流選手であるだけでなく、国際的なアイコンとして大谷はフランチャイズに莫大な付加価値をもたらしたのだ。
エンジェルスの2つの情報筋は、大谷がフランチャイズに年間2000万から2500万ドルの収益をもたらしたと推定している。
しかし、エンジェルスは大谷在籍中、首位との差が10ゲーム以内になったことがなかった。
大谷はメジャーリーガーとして真の優勝争いやポストシーズンを経験したことがなかったのだ。

 

バレロは、WBC優勝後、もう1つのMVPシーズンを経て、適度に競争力のあるチームに加入すれば、大谷の価値が急上昇することを知っていた。
特に、7つのチームが2023年に導入したユニフォームの広告パッチのスポンサー価値が確立されつつあった。
バレロはその価値を裏付けるデータを用意した。
一部のチームはその正確性に疑問を呈していたが、ドジャースはそれを理解した。
なのでバレロは、大谷が生み出せる価値について、ドジャースを説得する必要はなかった。

 

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大谷選手のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での優勝により、彼の価値が急上昇すると予測されていた。
再度のMVPシーズンを迎え、適切な競争力のあるチームに所属することで、大谷選手の価値はさらに高まると考えられていた。
2023年には7つのチームがユニフォームに広告パッチを導入し、フランチャイズ(球団)がスポンサーシップの価値を確立し始めたタイミングでもあった。

 

つまり、大谷選手の優れたパフォーマンスと、スポーツビジネスにおけるスポンサーシップの重要性の高まりが相まって、
彼の市場価値が非常に高くなることをバレロ氏は予見していたというわけだ。
大谷選手のようなスーパースターは、球団にとって競争力の向上だけでなく、スポンサー収入の増加にも大きく貢献すると考えられている。

 

広告パッチ(Advertising Patch)とは、スポーツチームのユニフォームに付けられる広告ロゴのことで主に以下の特徴がある。
(1) 広告主のロゴやブランド名が、選手のユニフォームの一部に縫い付けられたり、プリントされたりする。
(2) 広告パッチは、チームとスポンサー企業との契約に基づいて掲載される。
(3) スポンサー企業は、広告パッチを通じてブランドの露出を増やし、チームは広告収入を得ることができる。
(4) NBAでは2017-18シーズンから、ユニフォームへの広告パッチの導入が開始された。他のスポーツリーグでも徐々に導入が進んでいる。
(5) 広告パッチは、テレビ中継や写真などを通じて、世界中のファンに向けてブランドをアピールする効果的な手段とされている。
スポーツチームにとって、広告パッチは重要な収入源の一つであり、スポンサー企業にとっては、ブランド露出の大きな機会となっている。
大谷選手のような人気選手がいるチームの広告パッチは、特に高い価値を持つと考えられる。
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ヤンキースは今年、ユニフォームの広告パッチ(スタジアムの看板など、それに付随する他の広告契約と合わせて)を年間2500万ドルで販売したと報じられている。
このような交渉に詳しい2つの情報筋によると、ドジャースは大谷のおかげでより有利な取引を模索していたという。
特にソーシャルメディアやオンラインでの露出が前例のないレベルに達していることから、大谷のユニフォームの袖は野球界で最も価値のある不動産の1つになったのだ。
ドジャースを所有するコンソーシアム、ギャゲンハイム・ベースボール・マネジメントは、そのスペースを自ら確保した。
契約条件は公表されていない。

 

大谷から支払い延期のアイデアを聞いたバレロは、クライアントにとって最適な契約構造を考案するために動き出した。
彼は基本協定を調べ、給与の支払い延期に関する唯一の規定は、選手が少なくとも最低年俸(今年は74万ドル)を得なければならないということだけだと分かった。
また、これまでに延期された最大の金額は、マックス・シャーザーが2015年にナショナルズと結んだ2億1000万ドルの契約の50%だったことも突き止めた。

 

バレロは、ドジャースを感動させ、大谷が現在多くのスポンサー収入を得ていることから、2034年から2043年にかけての支払い延期時に節税できるような契約構造を考案した。
例えば、その頃大谷がカリフォルニア州に住んでいなければ、13.3%の州税と1.1%の州障害保険の給与税を回避できる可能性がある。

 

カリフォルニア雇用経済センターによると、このシナリオでは大谷は9,800万ドルの州税を節約できるという。
今年1月、州の会計監査官であるマリア・M・コーエン氏は、
「妥当な上限」を設けることで無制限の支払い延期に対して「即時かつ断固とした措置」を講じるよう連邦議会に求める声明を発表した。
2年前、大谷翔平のユニークな存在がMLBに規則の改定を促し、マウンドを降りた投手がDHとして試合に残れるようにする「大谷ルール」が制定された。
今度はカリフォルニア州が、州税法に「大谷ルール」を求めているのだ。

 

12月8日の朝、バレロとフリードマンは会話を再開した。「電話を切った時、かなり自信を持っていました」とフリードマンは言う。
「しかし、約60分後、大谷がトロントと契約条件で合意し、飛行機でそちらに向かっているという報道を耳にし始めたのです。
どう考えていいのかわかりませんでした。報道の詳細さを見ると、本当のことのように思えました」
オレンジ郡のジョン・ウェイン空港からトロントに向かう飛行機が特定された。あっという間に世界で最も追跡された飛行機になった。

 

フリードマンはバレロに電話をかけた。が、応答はない。
その時、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、ドラマ「ザ・オフィス」の俳優ブライアン・バムガーナーとランチョ・サンタフェ・ゴルフクラブでゴルフをしていた。
ロバーツの携帯電話には、息子や友人から大谷がブルージェイズと契約するようだというメッセージが殺到していた。
「おそらく私が今までプレーした中で最悪のラウンドでした」とロバーツは言う。
「集中できなかったし、気分も良くなかったです。」

 

フリードマンは焦っていた。もっと長く感じたが、10分後にエージェントから電話があった。
「すみません、別の電話に出ていました」とバレロ。
「トロントに向かっているという報道はどうなんですか?」とフリードマンが尋ねた。
「その報道は事実ではありません。彼は家にいます。今は寝ています。後でトレーニングしている時に会う予定です」

 

誤報は続いた。一方、バレロは他のチームと連絡を取り続けていた。
フリードマンによると、バレロは支払い延期案を他のクラブにも持ち込んでいると言っていたという。
ジャイアンツの野球事業部門社長ファーハン・ザイディは後に、彼らのチームが「構造と報酬の両面で」最終的な契約と「非常に似ているか、同じ」オファーをしたと述べた。

 

バレロは最後にもう一度、モレノとエンジェルスに戻った。
モレノがフェニックスで昼食を取っていた時に電話で話すことができた。
しかしモレノは依然として興味を示さなかった。
巨額の支払い延期案が出ても、彼にとって何も変わらなかった。大谷獲得を諦めたままだった。

 

その夜、大谷は決断を下した。
ドジャースでプレーしたいとバレロに伝えた。
彼らは翌日インスタグラムに投稿する発表文を作成した。
投稿の約5分前、バレロはフリードマンに電話をかけその旨報告した。

 

ドジャースが大谷にリクルート訪問の際に伝えたことが、大谷に強い印象を与えていた。
フリードマンと主要オーナーのマーク・ウォルターは、12年連続のプレーオフ出場でタイトルを1つしか獲得していないことに満足していないと強調した。
契約期間中、ずっと競争力のあるチームを作り続けることを約束したのだ。

 

「もちろん、自分がポストシーズンでプレーする姿は常に想像してきました」と大谷は言う。
「昨年は(エンゼルスが進出した場合)プレーできませんでしたが、そういうイメージは常に持っていました」
「WBC以前は、勝つか負けて終わり。。。そのまま帰ることになってしまうか という試合にあまり出ていませんでした。そういう試合に出るのは久しぶりでした。
だからWBCでそういう試合をするのは本当に楽しくて新鮮で、プレーオフやワールドシリーズに相当するそういう試合をもっとしたいと思うようになりました」

 

*** PART 5: 天才 GENIUS

アルバート・アインシュタインは子供の頃からバイオリンを習っていた。
それまで単調な練習で苦役にしか思えなかったものが、13歳でモーツァルトのソナタを聴いた途端情熱へと変わった。
「モーツァルトの音楽は、純粋で美しく、彼はそれを単に見つけたに過ぎないと感じさせる。
それは宇宙の内なる美の一部として発見されるのを待っていたかのようだ」とアインシュタインは後に語っている。

 

「モーツァルトの音楽」を「大谷のプレー」に置き換えれば、天才に関するアインシュタインの観察は同じように真実味を帯びる。
大谷は新しいものを生み出したわけではない。
新しい球種や打撃フォームを導入したわけでもない。
彼は、1919年にベーブ・ルースが二刀流としての2シーズンを終えて以来、メジャーリーグで発見されるのを待っていた野球の内なる美を見出したのだ。

 

Ohtani hits. He pitches. Science and music. Purity. Harmony. Genius.
大谷は打つ。そして投げる。科学と音楽。純粋さ。調和。天才。

 

++++++++++++ (ちょっと横道:参考)+++++++++++++
野球選手としての大谷翔平の才能を、モーツァルトの音楽や科学の美しさになぞらえて称賛している。。。
モーツァルトの音楽に関するアインシュタインの観察を大谷選手のプレーに当てはめることで、その類まれな才能を強調している
大谷は、新しい投球スタイルや打撃スタイルを導入したわけではなく
1919年にベーブ・ルースが二刀流を終えて以来、メジャーリーグで発見されるのを待っていた野球の内なる美しさを見出したにすぎない

 

最後の一文「Ohtani hits. He pitches. Science and music. Purity. Harmony. Genius.」は、
大谷選手の打撃と投球を科学と音楽に例え
大谷選手のプレーが純粋で調和があり、天才的であることを表現している

 

言わば、大谷の打撃と投球の両方での活躍を、科学と音楽の美しさ、純粋さ、調和、そして天才性と結びつけており
彼の才能が野球の本質的な美しさを体現していることを強調している
前の部分で述べられた大谷の才能を抽象的な概念(科学、音楽、純粋さ、調和、天才性)に結びつけることで
その才能の本質を端的に表現している
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大谷は12歳の時、日本版リトルリーグワールドシリーズに相当する大会でプレーしたいと自分のノートに書きました。
念のため、彼はその目標を帽子の裏にも書きました。
そして、その目標を達成した。
29歳になった今、12歳の自分が世界最高の二刀流選手になっていると想像していたかどうか尋ねられた。

 

「29歳の自分はプロ野球選手になっているだろうと思っていました」 と彼は言う。
「でも初めから二刀流をする・両方(投打を兼ねる)を務めるとは思っていませんでした。
当時はその選択肢がありませんでした。
誰もそうしていなかったからです。
だから、そんなことは頭になかったのです。」

 

大谷の訓練を見ると、その天賦の才能がどこから来ているのかが分かる。
それは子供の頃からの習慣ノートからきている。
真摯な努力、仕事の最小単位を大切にする –
一つ一つの反復練習、一振り一振りのスイング、一投一投を大切にすることが、ここで実を結んでいる。
まさに彼は父親の教えを体現している。

 

大谷は驚異的な身体能力の持ち主だ。
昨季、彼はアメリカンリーグで最も強く打球を打った(最低2,000球での平均打球速度94.4マイル)。
そして、メジャー全体で最長の本塁打(493フィート)を放った。
これまでの701試合で、大谷は171本の本塁打を放ち、86盗塁を記録している。
こうした成績で野手のキャリアをスタートした選手は過去に例がない。
しかも同時に、投手としての最初の86試合で奪三振数がメジャー史上8位タイの成績を残しているのだ。

 

彼は異常なまでの肩の可動域を持ち、脚の力も並外れている。
そのため垂直跳びの高さや力測定器(フォースプレート測定器)での加速力は、ドジャースがこの技術を導入して以来記録された中で最高値を示した。
それらの卓越した身体能力に、彼が父親と共に培った意図的な取り組みを組み合わせることで天賦の才能が生み出された。

 

肘の手術から復帰した大谷は、1月から打撃練習を再開した。
大谷は一振り一振りを試合さながらの振り方をした。
まず足元をしっかりと構え、バットをゆっくりとグラウンドの前で回転させ、フルートを奏でるかのようにグリップを緩めてバットを肩に構える、
そしてその馴染みの構えで真っ直ぐにバットを振り上げる。
そうして初めてコーチから投げられた球を打つ準備ができたのである。

 

「それが本当に印象的だった」 とフリードマンは言う。
「復帰プログラムを進める中で、毎日ただ無意識に慣れ親しんだスイングをする選手はいくらでもいる。
でも大谷の忍耐強さと意識的(目的意識がとても強い)な性格は、その練習にも現れていた。
一振りごとに15~20秒かけて、ピッチングのルーティンを踏んでいたのだ」

 

一振り一振りスイングごとに、
一回一回の重量ごとに、
一走りごとに全力疾走で、
大谷は自身に挑戦し続けている。
まるで子供のころの父・徹宛てにノートに書き続けるかのように。

 

「そうですね、選ばなくてはいけないとしたら、私は目標設定型だと言えるでしょう」 と大谷は言う。
「特にウェイトトレーニングに関してはそうですね。計画が必要不可欠です。
好きなことをただやっているだけではダメです。 うまくいきません。
適切な目標と、そこに至る計画を立てなければなりません。」

 

子供時代、大谷は母親が遊んでいた水泳やバドミントンを楽しんでいた。
母親のチームメイトの子供がプロ野球に誘い、当時小学2年生だった大谷は入団した。
兄と父親がプロ野球をしていたこともあり、大谷はそもそも野球に惹かれていた。
生まれつき右利きだった翔平は、右打ちか左打ちかを父の徹に尋ねた。
「そしたら父は『立って構えてみろ』と言ったんです」と大谷は振り返る。
「私の構えは左打者の構えだったので、それ以来左打ちになりました」

 

こうして大谷選手と野球との愛の物語が始まった。
野球は最高の打者でさえ10打席に7度はアウトになるような失敗の多いスポーツだと言われている。
しかしその裏返しとして、地道な努力を報いるスポーツでもある。

 

最大の栄誉は一朝一夕の満足感ではなく、着実な成長投資から生まれる。
方法論を地道に身につけていく必要があり、そういった点に大谷は魅了されていったのだ。
野球から最も喜びを感じることは何かと問われると、大谷は本塁打やストライクアウトではなく、そのプロセスそのものを選んだ。

 

「目標設定することそのものもその選択肢(喜び)に入るんです」と大谷は言う。
「最初の目標は全国大会に出場することでした。そして実際にそこに出場できました。
練習の成果が喜びに繋がったのです。
野球でなくてもよかったかもしれませんが、私の場合たまたま野球となりました。
目標を設定し、達成することが大好きなのです。」

 

今シーズン、メディアの流行語である「プレッシャー」や「期待」といった言葉が、
蒸し暑い夏の夜の小バエのように大谷選手とドジャースを取り巻くことになるだろう。
しかしそれらは定番の物語に過ぎない。
大谷は型にはまった選手とは正反対だ。

 

「私が最も注目しているのは、彼の周りの雑音を管理し、その時々に集中する能力です」 とロバーツ監督は言う。
「彼の仕事には意図があり、全てが考え尽くされています。
毎日が計算されています。そして彼には謙虚さと優しさもあります。」
優しさという言葉が、スポーツ選手への高い賛辞として用いられることは稀だ。

 

「それは大谷の育ちと文化に由来するものです」と、沖縄出身の母(栄子・ロバーツ)を持つロバーツ監督は言う。
「物事の進め方や人々への接し方に対する一種の敬意があり、内なる自信もあるのです。」

 

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この言葉が大谷選手に向けられたことには、彼の人間性の良さを物語る意味が込められているのだろう
並外れた運動能力だけでなく、謙虚で落ち着いた人柄も持ち合わせていることを
監督はここで強調しているのかもしれない
スポーツ界で活躍する彼の姿勢として
「優しさ」は高く評価される資質なのかもしれない

 

ロバーツ監督は、日本文化における礼儀作法の重んじられ方や
それに裏打ちされた内面的な自信のようなものを
大谷の「優しさ」の背景にあるものとして評価しているようだ
日本人らしい謙虚さと
それでいて自身を確立した姿勢が大谷の人となりの良さにつながっていると指摘している
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大谷をさらによく表す言葉がある。
日本では、職人(しょくにん)と呼ばれる高度な技術を持つ職人が尊敬されている。
この言葉は英語で「artisan」とほぼ同じ意味で訳され
これには熟練した陶芸家、詩人、画家などが含まれる。
しかし、「職人」は単なる個人的な技能の達人を指すだけではない。

 

例えば、大谷選手が6億8000万ドルの契約延期をした直後、
ドジャースは山本由伸投手とタイラー・グラスナー投手の獲得に合わせて4億6100万ドルを投じた。
大谷はそれを可能にしただけでなく、両投手の獲得にも協力した。
職人にとっては、コミュニティ全体の利益、より大きな善が重要なのである。

 

職人は自然の素材や道具を敬いし、適切な努力に必要な時間を重んじ、常に社会的責任を意識して仕事に臨む。
職人にとっての真の成功は、個人の功績によってではなく、コミュニティ全体の利益のためなのである。
大谷はその職人をも超えた。。。

 

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